国立の桜と大学通りの並木道を歩く完全ガイド
JR中央線に揺られて東京駅からおよそ45分。国立駅の改札を抜けた瞬間、目の前にまっすぐ伸びる幅44メートルの大通りの両側を、約340〜360本の桜が淡いピンクの天蓋のように覆い尽くす光景が広がります。
これが「国立の桜」です。
新東京百景にも選ばれたこの桜並木は、単なるお花見スポットではありません。1934年に植えられた歴史、桜とイチョウが交互に並ぶ全国的にも珍しい景観設計、そして90年近い老木を守り続けるボランティア「くにたち桜守」の活動——知れば知るほど、この並木道を歩く時間が特別なものに変わります。個人的に何度も訪れていますが、毎年新しい発見がある場所です。
この記事で学べること
- 大学通りの桜は10種類以上あり、3月上旬から4月下旬まで順番に楽しめる
- 1934年に皇太子(現上皇)誕生を記念して植樹された歴史的並木である
- 桜とイチョウの交互植栽は全国的にも珍しく、秋にも絶景が待っている
- 約320メートルのライトアップ区間で夜桜も堪能できる
- 「くにたち桜守」が22本の重傷木を数年がかりで回復させている
国立の桜の全体像と見どころマップ
国立の桜を語るうえで、まず押さえておきたいのが2つの主要な桜並木の存在です。
大学通り(だいがくどおり)は、JR国立駅南口からまっすぐ南に約2km伸びるメインストリート。幅44メートルという堂々たる通りの両側に桜が連なり、春には圧巻の桜のトンネルが出現します。一橋大学のキャンパスに隣接し、文教地区にふさわしい落ち着いた雰囲気が漂います。
もう一つがさくら通り。大学通りと交差するように東西に延びるこの通りにも桜が植えられており、大学通りと合わせると総数は約340〜400本にのぼります。
特におすすめの眺望ポイントは、大学通りにかかる歩道橋の上です。高い位置から見下ろすと、桜並木が南北にどこまでも続く全景を一望でき、写真撮影にも最適な場所として知られています。
大学通りに咲く桜の品種と見頃の時期

「国立の桜=ソメイヨシノ」と思われがちですが、実はそうではありません。大学通りには10種類以上の桜が植えられており、品種ごとに開花時期が異なります。これが国立の桜の大きな魅力の一つです。
早咲きの品種(3月上旬〜中旬)
最も早く咲き始めるのが大寒桜(オオカンザクラ)です。まだ冬の名残が感じられる3月上旬に、一足先に春を告げてくれます。続いてエドヒガンザクラが開花。ソメイヨシノより一回り小ぶりな花が特徴で、樹齢が非常に長いことでも知られています。
神代曙(ジンダイアケボノ)もこの時期に咲く品種です。ソメイヨシノに似ていますが、やや濃いピンク色で、近年はソメイヨシノの後継品種としても注目されています。
見頃の中心(3月下旬〜4月上旬)
国立の桜のメインキャストは、やはりソメイヨシノです。大学通りの桜の大多数を占め、5分咲きから満開までの約2週間が最も華やかな時期となります。
同時期に山桜(ヤマザクラ)や大島桜(オオシマザクラ)も開花します。山桜は赤みがかった若葉と一緒に花が開くのが特徴で、ソメイヨシノとは異なる野趣あふれる美しさがあります。大島桜は白い花と緑の葉のコントラストが印象的です。
しだれ桜も見逃せません。枝が優雅に垂れ下がる姿は、並木道の中でひときわ目を引く存在です。
遅咲きの品種(4月中旬〜下旬)
ソメイヨシノが散った後も、国立の桜は終わりません。関山(カンザン)は八重咲きの濃いピンクが特徴で、ボリューム感のある花姿が楽しめます。鬱金(ウコン)は珍しい黄緑色の花を咲かせ、桜のイメージを覆す品種です。
ほかにも明月(メイゲツ)や舞姫(マイヒメ)といった品種があり、3月上旬から4月下旬まで、約2か月にわたって何かしらの桜が咲いている状態が続きます。
夜桜ライトアップの楽しみ方

国立の桜は昼間だけの楽しみではありません。
満開の時期に合わせて、大学通りの桜並木が約320メートルにわたってライトアップされます。期間は例年3月下旬から4月上旬の見頃に合わせて設定されます。
照明に照らされた桜は、昼間のやわらかなピンクとは一変し、夜空に浮かび上がるような幻想的な姿を見せます。大学通りの幅44メートルという広さのおかげで、ライトアップされた桜のトンネルを窮屈さなく歩けるのが国立ならではの魅力です。
夜桜を楽しむなら、日没直後の「マジックアワー」と呼ばれる時間帯が特におすすめです。空にまだ青みが残る中でライトアップが始まり、桜と空のグラデーションが最も美しく見える瞬間です。
1934年から続く桜並木の歴史

国立の桜並木には、90年を超える物語が刻まれています。
1933年(昭和8年)、当時の皇太子(現上皇)がご誕生されたことを記念し、翌1934年から1935年にかけて、谷保村青年団と国立町会によって桜が植樹されました。
この時に採用されたのが、桜とイチョウを交互に植えるという独特の設計です。春には桜のピンク、秋にはイチョウの黄金色と、一つの通りで二つの季節の絶景が楽しめる並木道は、全国的にも非常に珍しい存在です。
こうした歴史と景観が評価され、国立の大学通りは「新東京百景」「環境色彩10選」「新東京街路樹10景」の三つに選定されています。単に桜がきれいなだけでなく、街路樹としての景観設計そのものが高く評価されているのです。
くにたち桜守と桜の保全活動
美しい桜並木の裏側には、深刻な課題があります。
ソメイヨシノの一般的な寿命は50〜60年と言われています。1934年に植えられた国立の桜は、すでに90年近くが経過。幹の空洞化や倒木のリスクが報告されており、多くの老木が限界を迎えつつあります。
この危機に立ち向かっているのが、ボランティア組織「くにたち桜守(さくらもり)」です。
桜守の活動は、単に木を植え替えるだけではありません。老木の幹に支柱を当て、空洞化した部分を保護し、少しでも長く生きられるよう手当てを施します。それでも回復が見込めない木については、同じ場所に若い桜を植えることで、並木道の景観を途切れさせない工夫がされています。
お花見を楽しむ際に、こうした保全活動に思いを馳せてみると、一本一本の桜がより特別に見えてくるかもしれません。
国立さくらフェスティバルとイベント情報
桜の見頃に合わせて、毎年国立さくらフェスティバルが開催されます。会場は谷保第三公園で、例年4月上旬の週末に行われています。
フェスティバルでは地元の飲食店による出店や、ステージイベントなどが催され、お花見の雰囲気をさらに盛り上げます。文教地区ならではの落ち着いた雰囲気の中で、地域に根ざしたあたたかいイベントが楽しめるのが特徴です。
アクセス方法と訪問のコツ
電車でのアクセス
最寄り駅はJR中央線・国立駅です。東京駅からJR中央線快速で約45分、立川ナビでもご紹介している立川駅からはわずか1駅(約3分)という好アクセスです。
国立駅の南口を出れば、目の前がもう大学通り。改札から桜並木まで徒歩0分という、これ以上ないアクセスの良さが魅力です。
おすすめの訪問タイミング
時間帯別おすすめ度
平日の午前中、もしくは早朝の訪問が最もゆったりと桜を楽しめます。満開の週末は多くの人で賑わうため、写真撮影を楽しみたい方は特に早い時間帯がおすすめです。
写真撮影のベストスポット
国立の桜を撮影するなら、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。
歩道橋の上からは、大学通りの桜並木を俯瞰で撮影できます。南北にまっすぐ伸びる桜のトンネルの全景は、ここでしか撮れない一枚です。
国立駅南口の正面は、駅舎と桜並木を一緒にフレームに収められる定番ポイント。大学通りの起点にあたるため、遠近感のある構図が作りやすい場所です。
一橋大学正門付近では、歴史ある校舎の建築と桜の組み合わせが楽しめます。文教地区ならではの品格ある景観が魅力です。
国立の桜と他の多摩エリアの桜スポット比較
東京西部には桜の名所がいくつもありますが、国立の桜にはほかにない独自の魅力があります。
国立の強み
- 駅から徒歩0秒の圧倒的アクセス
- 桜×イチョウの交互植栽は全国的にも希少
- 10種以上の品種で長期間楽しめる
- 文教地区の落ち着いた雰囲気
- 新東京百景に選定された景観美
知っておきたい点
- 専用駐車場がないため車のアクセスは不便
- 公園のような広い芝生スペースは少なめ
- 満開の週末は人出が非常に多い
- 老木の状態により一部立入制限の場合あり
広い芝生でレジャーシートを広げてのんびりお花見をしたい方には、昭和記念公園が隣の立川駅からアクセスできます。また、小金井公園の桜は約1,700本という圧倒的なスケールが魅力です。
一方、「街路樹としての桜並木の美しさ」という点では、国立の大学通りは東京でもトップクラスです。散策しながら桜を楽しむスタイルに最も適したスポットと言えるでしょう。立川で遊ぶ計画と組み合わせて、中央線沿線の桜巡りを楽しむのもおすすめです。
桜とイチョウが織りなす四季の景観
国立の大学通りが他の桜の名所と一線を画すのが、桜とイチョウの交互植栽という景観設計です。
春には桜のピンク色のトンネルが出現し、夏には桜とイチョウの緑が涼しげな木陰を作ります。そして秋になると、イチョウが黄金色に染まり、今度は黄色いトンネルに変わります。
一つの通りで春と秋、二つの季節の絶景が楽しめる並木道は、全国的にも極めて珍しい存在です。
桜を見に来た方が秋にも再訪するケースが多いのは、この二重の魅力があるからこそ。国立の大学通りは「桜の名所」であると同時に「イチョウの名所」でもあるのです。
よくある質問
国立の桜の見頃はいつですか?
ソメイヨシノの見頃は例年3月下旬から4月上旬で、5分咲きから満開までの約2週間が最も華やかです。ただし、大寒桜などの早咲き品種は3月上旬から、関山などの遅咲き品種は4月下旬まで咲くため、広い意味では約2か月間にわたって桜を楽しめます。開花状況は年によって前後するため、国立市の公式情報を確認されることをおすすめします。
国立駅から桜並木まではどのくらいですか?
JR国立駅南口を出た瞬間から大学通りの桜並木が始まります。文字通り徒歩0分のアクセスです。大学通りは駅から南に約2km続いており、片道20〜30分ほどの散策が楽しめます。さくら通りは大学通りと交差する形で東西に伸びています。
車で行く場合、駐車場はありますか?
大学通り周辺には専用の大型駐車場はありません。桜の見頃の時期は周辺道路も混雑するため、JR中央線の利用が最も便利です。どうしても車で訪れる場合は、国立駅周辺のコインパーキングを利用することになりますが、満開の週末は満車になることも多いため、早めの到着を心がけてください。
お花見でレジャーシートを広げられる場所はありますか?
大学通りは街路樹のある歩道のため、レジャーシートを広げての宴会スタイルのお花見には向いていません。散策しながら桜を楽しむスタイルが基本です。シートを広げてのお花見を楽しみたい方は、さくらフェスティバルの会場となる谷保第三公園や、近隣の昭和記念公園を検討されると良いでしょう。
国立の桜は将来なくなってしまう可能性がありますか?
1934年に植えられた桜の多くが寿命を迎えつつあるのは事実です。しかし、「くにたち桜守」をはじめとする保全活動により、計画的な若木への植え替えが進められています。一度にすべてが入れ替わるのではなく、老木のケアと新しい桜の植樹を並行して行うことで、並木道の景観を維持しながら次の世代へ引き継ぐ取り組みが続いています。
まとめ
国立の桜は、駅を降りた瞬間から始まる約2kmの桜並木、10種類以上の品種が織りなす長い花の季節、1934年から受け継がれてきた歴史、そして桜とイチョウの交互植栽という唯一無二の景観設計——これらすべてが一つの通りに凝縮された、東京でも特別な桜の名所です。
満開のソメイヨシノだけでなく、早咲きの大寒桜から遅咲きの関山まで、訪れるたびに違う表情を見せてくれます。そして、その美しさを次の世代に残すために、くにたち桜守の方々が静かに、しかし確実に活動を続けています。
今年の春、中央線に乗って国立駅で降りてみてください。改札を出た瞬間に広がる桜の景色が、きっと特別な春の記憶になるはずです。